公民館長として社会教育・生涯学習の基礎から学ぶ必要性を感じて【指定管理者×社会教育士】
令和2年度から開始している「社会教育士」制度。社会教育士(社会教育主事)として活躍する方の活動、そして「社会教育」への想いの”記録”を新コーナー「わたしの社会教育士ノートsince2024」でフォロワーの皆さんと共有します!
※本記事の内容はあくまでご本人の報告に基づくものとなっております。
【わたしの社会教育士ノートsince2024 No.4】
公民館長として社会教育・生涯学習の基礎から学ぶ必要性を感じて
髙木 徹さん(神奈川県綾瀬市立中央公民館)
※指定管理者:株式会社 オーエンス
【経歴】
事務機器会社に入社し、営業一筋で34年間職務に専念。定年2年前の平成30年6月に早期退職し、綾瀬市が設置・管理している社会教育施設(全8施設)の指定管理者である株式会社オーエンスに入社。綾瀬市立中央公民館館長として派遣され、綾瀬市オーエンス文化会館・綾瀬市立公民館(分館含め5館)・コミュニティセンター(2館)の管理運営・事業の推進に注力しています!
営業一筋のサラリーマンが公民館長に?!
—「社会教育士」の称号を取得されたきっかけとは
経歴にも記載してありますが、私は平成30年から綾瀬市立中央公民館長として派遣されるまで民間企業に勤めており、営業一筋で職務に専念してきました。公民館等の社会教育施設の管理運営や事業の企画業務という、前職とはまったく畑違いの公民館長として職務にあたっている中で、社会教育・生涯学習について基礎から学ぶ必要性を感じていました。そんな中で、令和2年度から社会教育主事の新しい制度が始まったことを知り、取得を目指しました。
令和3年度のA講習は生涯学習概論がオンライン受講、社会教育経営論以降が上野の社会教育実践研究センターでの受講でしたので、早速申し込みました。しかし生涯学習概論と経営論を受講した後、新型コロナウイルス感染症がまん延したため、その後の2科目を受講できたのは1年半後の令和4年度のB講習で、新設された神奈川会場が会場になりました。長期間かかりましたので最後まで受講できて正直ホッといたしました。講習は基礎からのさまざまな学びとふれあいがあり、とても楽しかったです。そして、神奈川会場を作っていただいた関係者の皆様に深く感謝しております。
綾瀬市の現状と「社会教育」の在り方
― 「綾瀬市」の特色や地域性について教えてください
令和5年11~12月に実施された「綾瀬市 こどもの生活状況調査に関するアンケート調査」から推測すると、地域性として、高齢化が進んでおり(27.6%)、外国人比率がとても高く(5.22%)、各障害者手帳所持者の総人口に占める割合が増加傾向(4.79%)にある事が挙げられます。さらに、ひとり親世帯や貧困・ヤングケアラ―状態の方も多くいるのではないかと感じられることから、孤独や孤立状態にある方が多いと思われます。
また、あくまで自分の感覚ですが、綾瀬市には鉄道の駅が無く、広く知られる観光名所や多くの人が集まる賑わいエリアなども少ないため、住民の行動範囲が狭く、地域に誇りや自信を持つことができていない市民が少なからず存在しているのではないかと思っています。
綾瀬市の公民館長として、社会教育は人づくりや地域づくりのために重要だと思いますが、第11期 中央教育審議会生涯学習分科会における議論の整理において明確に書かれているように、全ての人(障がいがある人、孤独・孤立状態にある人、外国ルーツの人、高齢者、女性など)のウェルビーイングを実現するために、共に学び支えあうという視点が非常に重要だと考えています。また、社会教育は地域づくりの先頭に立って引っ張るだけでなく、遅れそうになりそうな人たちを最後尾にいて守り、導く役目も重要だと思っています。
地域住民の要望に応える公民館運営
―― 公民館長として意識していること、具体的なエピソードを教えてください。
限られた予算の中で多くの事業を実施するために、なるべく地域の方に講師やお手伝いをお願いするなどして、様々な経費の削減を検討しています。一方で、使わなければならない事にはためらわずコストをかけることもあります。そのような観点で実施した、前例と予算の有無をあまり意識しない公民館運営企画のエピソードを紹介します。
令和4年9月のことです。綾瀬市立中央公民館に見知らぬ女性が飛び込みで来られ、面会を求められました。お話を聞くと、綾瀬市内で知的障がい者向けのグループホームを2件経営されているが、近々近隣で就労継続支援施設B型事業所「ぱぴる」を開業する。ついてはその利用者の仕事に協力してくれないかとのことでした。
常々考えていたところでしたが公民館事業(障がい者学級とか)ではなく、仕事という形での来館も良いのではないかと思いまして、生涯学習課と相談したところ、賛成していただきました。
そこで、綾瀬市立中央公民館がある綾瀬市市民文化センター内の花壇・プランターの花がら摘みや草取りをお願いすることにしました。とても広い敷地ですので私たちとしても、とても助かります。
「ぱぴる」に対しては工賃と呼ばれる給料に相当する金額をお支払いすることになりますが、それを毎月の指定管理料から支出することにしました。このようにして翌月から毎週金曜日の午前中に来てくれるようになりました。今でも事業所の方とぱぴる利用者の方とで毎回3~4人くらいが来てくれており、いつも元気に楽しそうに仕事に取り組んでくれています。ぱぴるの中でも人気のある仕事だと伺っています。今では「ぱぴるの庭」という花壇をお任せしてお花を植えていただいています。当館の職員もなるべく、ぱぴる利用者の皆さんとコミュニケーションを取るようにしています。
社会教育施設の一括管理による地域連携
―― 全8施設の館長として活動されておりますが、指定管理者による一括管理だからこそ連携できた事例はありますか?
令和4年度の新事業として「チャレンジ!はじめての生け花」という3回シリーズの講座を定員10人で実施することに計画しました。地域の華道家の先生に講師をお願いしたのですが、講師から生け花用に花器を10個以上できれば15個くらい用意してほしいと頼まれました。一個3,000円として3万円から5万円近くかかり、これは明らかに予算オーバーです。実施はちょっと無理かなと諦めかけました。
しかしここで思いついたことがあります。私たちの分館である吉岡地区センターには陶芸窯と陶芸室があり、当時7団体が個別に活動していました。この各サークルにお願いして花器を作ってもらおうと。陶芸用の土と釉薬などは公民館事業費で購入して提供し、窯の利用料はこちらの事業なので100%減免で使用していただくことにして、7団体で結成している陶芸連盟の会長に提案することにしました。陶芸連盟はあるのですが普段は個別に活動していましたので、取り敢えずその連盟の会長にわたしから主旨を説明してお願いしてみました。また、完成した花器は生け花講座参加者に自由に選んでいただき、出来上がった生け花は綾瀬市立中央公民館にあるギャラリーで展示し、一般公開もしましょうということも提案しました。会長はすこし戸惑ったようでしたが、各団体に相談してみますとお答えをいただきました。
そして数日後、各団体から快諾のお返事をいただいたとの連絡を会長からいただきました!
忘れもしない令和4年5月15日、吉岡地区センター陶芸室に7団体が一堂に会し、作陶が始まりました。わたしと華道家の先生もそこに伺い、皆さんにご挨拶しあらためてお願いしました。実に陶芸サークルが一堂に会して作陶するのは事実上初めてだったようです。その後、素焼き・本焼きと順調に進み、16個の花器が出来上がりました。どれも個性的で素晴らしい花器です。
生け花講座はこの花器を使用して行われました。最終日にはギャラリーで展示会も開催しました。花器を作っていただいた陶芸サークルの皆さんも見に来られました。その後、生け花講座は毎年この花器を利用して開催しています。生け花講座の企画から陶芸サークルに花器を作ってもらう事を思いつき、団体にお願いし作陶していただき、無事講座を開催し展示会までこぎつけたとき、社会教育士の仕事ってこんなことかもしれないって思いました。ちなみに陶芸用の土や釉薬にかかった費用は1万円程度です。
地域のつながりのきっかけになったと自負しているエピソードの一つです。
これから社会教育士になる方に向けて
―― 社会教育施設に「社会教育士」がいることについて、どのようにお考えですか?
あくまで私個人の意見になりますが、社会教育士がその社会教育施設等にいたとしても、それなりの活動をしなければその存在価値はほとんどないと言っても良いのではないかと思います。社会教育士と名乗る資格があり、名刺にも刷り込んでいるのであれば、以下のような思いで活動をすればそのことによる付加価値はとても大きなものとなり、チャレンジャブルで成果が生まれる事業ができると考えています。
○1つ目
事業が毎年同じものの繰り返しになっていないか振り返り、常に新しいことにチャレンジしましょう。そのためには文科省や全公連、県公連などで開催されている研修になるべく多く参加し、いま公民館が求められていることは何なのか考えましょう。その求められていることで、自館ではできていないことがあればどうすれば実現できるか検討しましょう。
○2つ目
その事業の実現のためには、連携先や交渉相手等からやや強引と思われたり、あつかましい、ずうずうしいと思われたりすることを恐れず、思い切って行動を起こしましょう。社会教育士であることを前面に出して話をしてみていただければお相手にもご理解いただけると思います。
○3つ目
事業においては成果(アウトカム)を出すことは重要ですが、成果はそんなにすぐに簡単に出るものではないと考えます。成果は目標として、まずはやってみることを考えましょう。地域課題解決を目指す事業であればなおさらです。
公民館全職員の「みんなで社会教育士」を目指して!
―― 今後、社会教育士として活動していく意気込みを教えてください。
公民館館長として、事業担当者による講座の実施だけでなく、貸館担当や維持管理担当を含めた全8館の職員全員(75名)の内部研修を充実化し、“みんなで社会教育士”と言えるような公民館にしたいと思います。また、職員の社会教育士称号取得も奨励します!
そうすることによって私たちの社会教育施設を「地域の学びと実践プラットフォーム」と言えるまで高めていきたいと思います。そのようなプラットフォームにおいて、今よりもっと多くの障がいがある人、孤独・孤立状態にある人、外国ルーツの人、高齢者、女性等が活発に学び、地域づくりの実践をするよう、微力ながら頑張りたいと思います!!
◆その他の情報コーナー
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★「社会教育人材の養成及び活躍促進の在り方について(最終まとめ)」
中央教育審議会生涯学習分科会社会教育人材部会において「社会教育人材の養成及び活躍促進の在り方について(最終まとめ)」(令和6年6月25日)が取りまとめられました。↓↓↓