「教育」と「地域づくり」を追求した2人の新卒が選んだ道【地域おこし協力隊×社会教育士】
今回は、北海道浦幌町の地域おこし協力隊として中高生の探求的な学びづくりに取り組む古賀さんと上野さんに、「社会教育士」に興味を持ったきっかけや、現在の活動にどのように社会教育が活かされているのかについてお話を聞きました!
[北海道]
浦幌町 地域おこし協力隊
古賀 詠風さん (写真左)
1996年北海道遠軽町生まれ、高校卒業まで田舎町で過ごす。北海道大学教育学部社会教育専攻として学ぶ傍ら、「カタリバ」という活動に関わるなど、学校教育だけでない教育のあり方に触れる。卒業後、地域で子どもを育む浦幌町の「うらほろスタイル」の高校生つながり発展事業に地域おこし協力隊として参画。高校のない浦幌町で、「浦幌部」の中高生の探究活動の伴走などに関わる。
[北海道]
浦幌町 地域おこし協力隊
上野 結子さん (写真右)
1997年熊本県生まれ。2001年、北海道苫小牧市へ移住し、小・中・高と学生生活を過ごす。2017年4月、北海道教育大学釧路校地域・環境教育専攻へ入学し、地域教育を専門に学ぶ。大学在学中、2020年に北海道立生涯学習推進センターが実施した社会教育主事講習を受講し、社会教育士を取得。
2021年3月、大学を卒業し、2021年4月より北海道浦幌町地域おこし協力隊、うらほろスタイル・地域探究活動伴走担当となる。うらほろスタイルの「子どもの想い実現事業」と「高校生つながり発展事業」を主に担当している。
「地域」と「教育」に関われるしごとを探していた
―― お二人の現在の活動について教えてください。
古賀さん:私たちは浦幌町の地域おこし協力隊で、私は隊員3年目、上野は隊員1年目になります。2人とも大学卒業後すぐに地域おこし協力隊になりました。
浦幌町の地域おこし協力隊は現在11人いて、私たち2人は「うらほろスタイル」という将来の地域づくりの担い手をはぐくむことを目的とする官民連携の事業を担当しています。
「うらほろスタイル」の中にも様々な事業があるのですが、特に、「高校生つながり発展事業」という高校生の探究的な学びを支援する事業を担当しております。
上野さん:実は、浦幌町には高校が無いんです。浦幌町の子供たちにとって、高校進学とは、「町から出て中学までの同級生とばらばらになる」ということを意味します。そんな中、「高校に行っても浦幌町の友達とつながりたい」、「まちに関わり続けたい」という子供たちが、「浦幌部」という放課後の活動を立ち上げました。
「浦幌部」の高校生たちは、町のためにできることを考え、町内のお祭り等で浦幌産の食材を使用したピザなどを販売したり、YouTubeチャンネルを立ち上げて、浦幌町を題材にした映像を作ったりしています。
古賀さん:もともと、高校生の自主的な活動とそれに対するサポートから始まったのですが、活動を続けていく中で、社会で必要な力を身につけたいという高校生も出てきました。そういった高校生に対し、私たち地域おこし協力隊が活動や学びを上手くコーディネートすることで、「浦幌部」による自主的な活動が探究的な学びとして深まるようにサポートしているのが、現在の「高校生つながり発展事業」です。
最近では、高校生の姿を見ていた中学生が「自分達もやりたい!」といって浦幌部に参加し始めて、中学生の活動のサポートもするようになりました。
―― お二人は大学卒業後、すぐに浦幌町の地域おこし協力隊になったとのことでしたが、どのようなきっかけがあったのでしょうか?
上野さん:私はもともと教育学部で学校の先生を目指していました。しかし、ゼミの活動で浦幌町と関わるようになったことが転機となりました。
学生として浦幌町に関わる中で、子どもたちや若者の「やりたい!」を本気で応援するだけでなく、そのために行動し、本当に「やる!」までサポートしてくれる大人の方、熱い思いを持った地域の方にたくさん出会いました。
「大学卒業後も浦幌に関わり続けたい!」と思うようになったのですが、小さいころから学校の先生になりたかった私にとっては「教育」という軸も捨てられませんでした。そのため進路を迷っていたところ、浦幌町では地域おこし協力隊として教育事業に携わることができると知り、地域おこし協力隊になりました。
古賀さん:私は中高生のころ、地元の学校の閉鎖的な環境に違和感を覚えて、適応できずに悩んでいたことがありました。学校をもっと開けた場所にしたいと思って教師を目指し、北海道大学教育学部に入ったのですが、北海道大学の教育学部は、教員養成だけでなく、教育について幅広く学ぶ環境でした。また、カタリバの活動に3年間かかわっていたのですが、大学の授業や参加していたカタリバの活動で、初めて学校以外の場所にも学びとか教育があることを知りました。
また、私自身もともと田舎出身で、「地元には何もない」と思っていましたが、自分の地元で魅力発信に取り組む方に出会って、「地元には何もない」のではなく、「見えていなかっただけ」だったということに気が付きました。
自分の中で「地域」と「教育」に関われるしごとを探していたとき、カタリバの活動の中で浦幌町の地域おこし協力隊の方に出会い、「うらほろスタイル」の話を聞きました。「うらほろスタイル」は、"地域の中で子供が育つ"という、まさに自分の中の「教育」軸と「地域」軸の2つが合わさっているところに魅力を感じ、地域おこし協力隊になりました。
人と人との出会いや新たなことに取り組む機会などの「広がり」を提供できる社会教育
―― 社会教育士になったきっかけについても教えてください。
上野さん:教育学部だったのですが、社会教育のことを専門的に勉強したことがあまり無く、社会教育主事という仕事についても知りませんでした。しかし、私が地域と教育に関心を持っていたところ、社会教育主事講習っていうものがあるよ!と先生や先輩から聞いて、自分のスキルアップのために受講してみました。
また、学生時代に出会った当時の浦幌町の地域おこし協力隊のうらほろスタイル担当の方も社会教育主事講習を受けていたので、今後のうらほろスタイルでの活動に役に立つのではないかと思いました。
古賀さん:私はもともと、学校を開けた場所にしたいと思っていたので、学校の中で学びを作るというよりは、地域側として学びを作り、学校を開いていく立場、まさに社会教育側のほうが自分のやっていきたいことに合っていました。
大学で社会教育主事養成課程を履修する中で、コーディネーター的な役割を担い、人と人との出会いや新たなことに取り組む機会などの「広がり」を提供できる社会教育側でやっていきたいという思いも強くなりました。
社会教育士制度が始まったのは大学卒業後で、私は旧課程の修了者ですが、せっかく社会教育主事の任用資格を持っているのであれば、新しく始まった「社会教育士」になるための追加2科目(※)も受講しようという気持ちで主事講習を昨年、地域おこし協力隊2年目の年に受講しました。
(※社会教育士と称することができるのは、令和2年度以降に講習または養成課程を修了した者になりますが、これ以前の修了者においても、「生涯学習支援論」「社会教育経営論」の新2科目を修得すれば社会教育士と称することができます。)
―― 上野さんは大学4年生で、古賀さんは地域おこし協力隊員2年目で社会教育主事講習を受講されたとのことですが、それぞれ大学や仕事との両立は大変ではなかったですか?
上野さん:私の大学は社会教育主事養成課程がなかったため、過去にも社会教育主事講習を受講しに行く学生がいました。そのため、大学の先生も理解があり、社会教育主事講習を受けるにあたって欠席する授業については、課題提出に置き換えたりしてくれたので、大学との両立もできました。
古賀さん:私は地域おこし協力隊の任期2年目でしたが、「うらほろスタイル」での活動と社会教育主事講習の内容はつながるところも多かったので、職場の理解もありました。また、「うらほろスタイル」のスタッフだけでなく、上司である町役場の職員の方も、隊員としての任期が終わった後の進路にも役に立つということで、「ぜひ受けて来な〜」といって応援してくれました。町役場の皆さんは隊員の任期終了後の活動も気にかけてサポートして下さいますね。
社会教育士は自分たちが役に立てるということの証明
―― 社会教育主事講習の学びは、お二人の「うらほろスタイル」での活動にどのようにつながっているのでしょうか?
上野さん:講習では、学習プログラムを企画する機会があったのですが、うらほろスタイルの事業でワークショップやイベントをする際にも、それらが「学びの機会」となるように設計するうえで役に立っています。
また、名刺やプロフィールに「社会教育士」の称号を書けることは、自信につながっています。「学びの支援者」として、自分たちが役に立てるということを保証できるようなものになっています。
古賀さん:まさに今のうらほろスタイルでの「高校生つながり発展事業」は、社会教育主事養成課程や講習で学んできた社会教育そのものです。「浦幌部」の活動として中高生が自分たちの関心のあるプロジェクトに参加する中で、そのプロジェクトだけで終わらせずに、その先につながるような学びや関係性を生み出せるように、日々試行錯誤しながら実践しています。
中高生たちがやりたいことをやるというのでもいいと思いますが、活動自体に目的が閉じないように、「活動を通じてどういう人と会ったらこの子にとって良さそうか?」「この子にとってこういう役割を果せたら今後につながってきそうだな」ということを考えています。「浦幌部」はイベント的なものでも学習プログラムでもない「日常」の活動であり、その中で学びの支援をする「伴走者」のような意識で中高生と向き合っています。
最近うれしかったことがあって、2年前に関わっていた高校生が「この町での将来が楽しみ」とこの間会ったときに言ってくれたんです。「この町の将来」ではなく「この町での将来」という言葉から、町への肯定感だけでなく、自分や未来への肯定感が感じられたことがとてもうれしかったです。今後も、中高生たちが未来への期待感や期待できる実感みたいなものを持てるように伴走していきたいと思っています。
地域おこし協力隊としての「支援し過ぎ」ない「自走できる」支援
―― 社会教育士になるメリットについて地域おこし協力隊の方にメッセージをお願いします!
古賀さん:地域のネットワークを把握して、コーディネートして、何かコトを起こそうというときに、社会教育の視点は役に立つので、多くの地域おこし協力隊員の活動に通じるところはあるかと思います。
上野さん:私が活動の中で大事にしているのは、中高生たちが「自走できる」支援です。地域おこし協力隊として「支援し過ぎ」てしまうと中高生のためにもならず、今後の展開にもつながらないと思います。あくまで私たちは伴走者・支援者であり、前に出過ぎないことが大切で、その点は社会教育の役割や働きかけ方から学ぶところが大きかったです。
古賀さん:「支援し過ぎ」ないという点では、今、「十勝うらほろ樂舎」という団体と連携して、探究的に学べる環境づくりをさらに進めていく予定です。具体的には、子供たちの選択肢がさらに広がるように、地域の情報が見える化する仕組みと、学べる環境や居場所づくりに取り組んでいます。属人的にならないように仕組化していくのも、社会教育的な働きかけの1つだと思います。まだまだこれからやることはたくさんあります!
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