自分の実践を深めて、客観的に見直すきっかけに【公民館×社会教育士】
今回は、小金井市公民館貫井北公民館で勤務し、昨年3月に社会教育士の称号を取得された村山分館長と伊藤副分館長に、公民館での活動や「社会教育士」が現在の活動にどのように活かされているのかについてお話を伺いました!
公民館で受けた講座をきっかけに社会教育に携わる
―― 現在の活動について教えてください。
伊藤さん:小金井市公民館貫井北分館の職員として、高齢者から若者、子育て世代などあらゆる世代を対象とした講座を実施し、学びを実践に活かし、地域のコミュニティづくりの促進や共助に結びつける活動を行っています。
―― 社会教育に携わろうと思ったきっかけを教えてください。
伊藤さん:専業主婦をしていた頃に、公民館で行われていた保育付きのジェンダーに関する講座に参加し、その時の講師先生(東京学芸大学の先生)からジェンダーについてわかりやすく説明していただきました。専業主婦として抱えていたもやもやが、実は自分だけの問題ではなく、社会的な問題だと気付かされました。
そのことがきっかけで、資格や受験のための学びではなく、生き方に関わる学びをしたいと思うようになり、当時社会人でしたが大学入試共通テストを受けてリカレント教育として東京学芸大学に入学しました。
―― 伊藤さんは、高齢者安心電話相談員や自殺防止LINE相談員など、福祉の活動もされていますね。
伊藤さん:もともと私がやりたいことは、社会教育でした。しかし、大学1年生の時、社会教育だけでは、人は自己実現ができないのではないかと思うようになり、福祉との両輪ならその人の一生を支えることができるのではと考え、大学では社会教育と社会福祉の両方を学びました。
公民館の講座を受けたことをきっかけで気付けたことを、今度は公民館職員として気づきにつなげる機会の提供をし、利用者の方が学びを通して自分の人生を切り開いてほしいと思っています。
公民館の仕事を職業に例えるとプロデューサー
―― 地域課題を踏まえた公民館の運営についてどのようにお考えですか?
村山さん:貫井北分館には、年間7万数千人、フリースペースを含めると10万人を超える人が来館されます。
公民館の主役は地域の人々です。ですが、公民館の職員は、困っていることに直接応える専門家ではありません。困っている人を、様々な講座を通してキャッチして、適切にどう結ぶかだと思います。貧困や人権の問題などを要因として生きづらさを感じている人が、公民館に来ることによって少しでも楽になったり、なんとなく公民館に来るという流れをつくることが大切で、それは職員の力量に左右されます。
博物館や図書館は、展示物や書籍等の一次資料がありますが、公民館には部屋しかありません。それをいかに講座として展開し、参加者の負担や悩みを軽減させるかが重要であり、それが公民館の役割だと思います。
公民館の仕事を職業に例えるとプロデューサーだと思います。予算とその管理、アーティストの人選ではありませんが、講師のセレクト、最終的に観客がコンサートに行ってよかったという成果が、公民館でいえば、住民がここに来ると気持ちが軽くなったという成果だと思います。プロデューサーというと、少しカッコつけすぎかもしれませんが、地域をコーディネートするにあたって、そういった認識、心構えで対応しています。
―― 地域の方々に寄り添った運営、地域課題への向き合い方についてどのように取り組んでいますか?
伊藤さん:公民館には色々な人が来ますので、高齢者、成人、子ども・子育て、青少年に大きな分類分けをして、事業を展開しています。コロナ禍で公民館活動が十分にできず、人と会うことも難しい中で、公民館でどんなことができるだろうか、会えないからこそできることは何かを考えました。三密回避など制限の中でもできる取組として、普段室内で行っている認知症カフェを、感染リスクの低い「アウトドア 認知症カフェぬくいきた」として、スタンプラリー形式で、近隣店舗を回ってスタンプをもらい、今後の地域商店街で見守り体制の形成につなげる試みを行いました。このほか、就きたい職業としても人気のあるYouTuberを講師に迎えた青少年教育事業・世代間交流の推進として「現役YouTuberが教えるはじめてのYouTuber講座」、三密回避もできる場所で地域での交流・仲間づくりを目的に実施した「子育てパパの登山講座」などを行いました。コロナ禍で人と人とが密になれない状況の中でも、いまみんなが向き合っている課題に対して、できることをやってきました。
青少年関係の事業としては、当館が公民館と図書館が併設されている強みを生かし、図書館と連携した事業を数多く展開しています。特に若者にとって、いきなり公民館に来るのはハードルが高いようですので、若者を取り込む一つとして、「きたまちYA(ヤングアダルト)ひろば」を行っています。若者が本の紹介を行うことで、同じ本が好きな若者を図書館と連携して公民館活動にも取り込んでいます。本の紹介を通して、学校や学年の違う若者たちが結びつく仕組みです。
図書館との連携のほかに若者を取り組む環境として、当公民館には勉強等を行うフリースペースがあります。小学校の頃、フリースペースで勉強していた子が、中学生になって「きたまちYAひろば」に参加することもあります。「一人でも利用できる居場所」があれば、そこから「人とつながる」に発展していきます。フリースペースは、会話しないけど、同じような受験の参考書を積み上げて勉強している人がいるという静かな連帯感を感じます。また、ハーモニカ、リコーダー、ウクレレなどや、楽しそうな声が聞こえ、何やっているんだろうと、その環境が人と人とがつながるきっかけになっていると思います。
―― 認知症カフェと介護者サポーター講座は、優良な事例として過去にも文部科学省で取材させていただきました。改めて、認知症カフェを始めたきっかけや、公民館で行うことのメリットを教えてください。
伊藤さん:小金井市には市民などからなる公民館企画実行委員という制度があり、その会議の中で委員から、認知症カフェの提案があったことがきっかけで、認知症カフェをオープンしました。公民館には認知症や介護の専門職はいませんので、地域で認知症カフェを運営するNPO法人UPTREEの協力を得て、共催で介護者サポーター養成講座を実施し、その修了生がカフェのサポーターとして活躍する仕組みをつくり、住民によるカフェの活動・運営につながっています。公民館で行う利点は、誰にでもオープンな施設ですので、気軽に参加できることです。交流や相談に行きづらいと感じる認知症の方や家族の方でも、コーラスサークルで行ったことのある公民館、市民映画祭で行ったことのある公民館だったら、楽しいことやっているから公民館に行ってみようという感覚で、気軽に参加いただけるよう、自由に楽しく過ごせる雰囲気づくりを心掛けています。
「公民館はやっぱりいいね」と思っていただくことが我々の仕事
―― お二人は、公民館に求められること、公民館の役割をどのようにお考えですか?
伊藤さん:利用者が講座だけじゃなくて、日常的に公民館へ来てもらって、職員とちょっと会話をするということも大切だと思います。
講座の参加者数が多くなくても、講座に参加した方が何か気付きを得る、よかったと思えるという向き合い方、地域のNPO法人や社会教育施設などの地域の社会資源がいかに結びついて、相乗効果を発揮して公民館運営を行うことも大切です。
村山さん:例えば、オンラインで映画を見ることができても、映画館にはたくさん人が来ます。一つの空間に集まって、映画の世界に入ります。博物館でも、展示物をオンラインで見ることができますが、皆さんわざわざ足を運んで、実物の展示物が見られる空間に行きます。
公民館においても、デジタル化・オンラインという大きな波が来ていますが、映画館や博物館と同じようにリアルな交流・学びの場としての期待があります。
オンラインでいくらでも様々なことが学べるようになり、オンライン・デジタル化の大きな波が来ている今だからこそ、「リアルな体験」の価値が見直され、公民館の講座に参加したい、人に会いたいという波がくると思います。リアルの魅力を感じてもらえるように、住民のニーズをつかみ、適切なコーディネートを行って講座を展開するとともに、来てくださった方々の成長を見守り、居心地の良さを感じる環境づくりを続けていくことが重要だと考えています。
東京都は都道府県の中で沖縄に次ぐ公民館の少なさです。全国に約14,000館ある中で、東京都には80館ほどしかありません。「公民館なんて」と言われる都市型の地域で、このタイミングでできた公民館なので、「公民館はやっぱりいいね」と思っていただくことが我々の仕事だと思いますし、そこにやりがいを感じます。
社会教育士の取得は一度足を止めるきっかけ
―― お二人は、社会教育士制度が始まる前に、社会教育主事任用資格を取得し、社会教育士制度が始まって新2科目を修得されましたが、学んだ内容は公民館での活動にどのように役立っていますか?
伊藤さん:私はとても役に立っています。
社会福祉士には、基礎研修や様々なテーマの研究会があり研修制度が充実していますが、社会教育の分野においては、東京都公民館連絡協議会や色々な研修制度がありますが、実践で感じた違和感・課題を学ぶことによって解消するというサイクルが少ないんです。
そういった意味で、社会教育士の称号取得に必要な新2科目を受講したことは、課題などに向き合うことによって、実践中に感じたことと理論的な結び付けができ、解消に近づけてよかったと感じています。コロナ禍の前は、実践研究東京ラウンドテーブルという意見交換の場に参加して、実践で感じたことを共有し、どうしたらいいかを考える場がありました。現在はコロナ禍で難しくなりましたが、向き合っている問題に対して、いろんな視点で考える機会になりよかったです。
村山さん:社会教育の現場に長く携わっていると、自分の感覚で進めてしまいがちです。社会教育士の称号取得に必要な新2科目を受講したことで、その勘違いを改めて整理できたというか、自分の実践を深めて、客観的に見直すきっかけになりました。
講師の先生は、私のキャリアと立場を踏まえて指導をしていただき、私が経験から安易に効率的に行っていることが、本来考え込まなければならない大事なところを省略しているということに気付かされました。
同じ大学で学んだ全国の仲間とは、いまでもオンラインで毎月勉強会を行っていて、人脈づくりにもつながりました。
―― 最後に、お二人から社会教育士を取得するメリットや、今後、取得される方へのエールをお願いします!
伊藤さん:まずは、”社会教育”士のネームバリューが高まればいいなと思っています。社会教育の価値や認知度が高まることで、社会教育に携わる多くの人が、自分の仕事にやりがいを持てるきっかけになれば素敵だと思っています。世間に広くその名称が認められてきた”社会福祉”士と同じように。そうなれば、社会教育士の称号を取得するメリットが高まると思います。
私は、社会教育に携わるこの仕事に、とてもやりがいを感じています。やりがいを持って仕事に取り組むことで、自分のためだけじゃなく、利用者に還元できるような関わり方が理想です。
ネームバリューの活用、自己実現のため、1つのキャリアアップとして、社会教育士の称号を取得していただければと思います。
村山さん:私は社会教育士という称号ができて純粋にうれしかったです。
人から今、何の仕事をしているかを聞かれたときに、博物館に勤めていたときは、学芸員と一言で説明できたのですが、公民館に勤めている今、地域づくり、地域振興に携わっていると言っても、中々伝わりません。
今は、社会教育士ですと一言で説明できるので、イメージを伝えやすいです。称号がなかったときは、社会教育主事とは名乗れませんし、説明に困りました。社会教育に携わっている内容を延々と説明してもドン引きされるだけですし(笑)。
社会教育施設には様々な分野がある中で、社会教育士は、共通の言語で、司書、学芸員、社会教育主事などのベースになるものだと思います。みんなが取得されると、話し合いもよりスムーズに進むように思います。
一度足を止めて、感覚でやっていたものをしっかり見つめ直すためにも、そして、社会教育士の取得は、新たな人脈もできましたので良い機会になりました。
社会教育士について、詳しくは特設サイトへ↓↓↓
小金井市公民館貫井北分館について、詳しくはこちらへ↓↓↓
日本社会教育士会について、詳しくはこちらへ↓↓↓