「人と本、本と地域を結ぶ」きっかけづくり【民間企業×社会教育士】
令和2年度から開始している「社会教育士」制度。社会教育士(社会教育主事)として活躍する方の社会教育士としての活動、そして「社会教育」への想いの”記録”を新コーナー「わたしの社会教育士ノートsince2024」でフォロワーの皆さんと共有します!
※本記事の内容はあくまでご本人の報告に基づくものとなっております。
【わたしの社会教育士ノートsince2024 No.7】
渡邉 里帆さん(株式会社 ひらく)
「本」を用いた企画・プロデュース会社と社会教育のきっかけ
―― はじめに、渡邉さんのお勤め先と活動について教えてください。
(株)ひらくは、2022年4月20日に日本出版販売株式会社のグループ会社として設立されました。出版専門商社として75年にわたり本を扱ってきた日販がもつインフラやノウハウと、ブックオーベルジュ「箱根本箱」、入場料のある書店「文喫」を生み出した、既成概念にとらわれない「文化的発想力」が強みです。長年本を扱いながら、本のある場所や空間を再定義し、その価値を問い続けてきたわたしたちだからこそできるのが文化コンテンツ(※)を用いた問題解決です。
※ここでは、本・音楽・映画・推し活など『なくても生きていけるけど、その人にとってはそれがないと生きていけない』ものを文化と呼んでいます。
「場と機会をつくり、うれしい時間を提供します。」を理念とし、さまざまなアプローチで企画・業態の提案を行っています。
その中で私は、図書館や公民館をはじめとする公共施設のプロデュースや各施設をつくるときのお手伝いをしています。たとえば、図書館では利用者の方に本を手に取ってもらうための新しい提案から、さまざまなイベントの企画、運営を行っています。
また、図書館の基本構想などをまちの人や自治体の方と一緒に考えたり、公民館や青少年野外活動施設をつくるときに、ワークショップを開催して、まちの人たちからたくさんの意見をもらったりする業務も行っています。
具体的には、茨城県常総市で行っている「まちなか再生事業」があります。まちなかの賑わい拠点をつくる活動の一環として、公民館の移設に伴う公共空間の利活用方法について、市民の方からアイデアや意見を集めるためのワークショップの開催や、市民参加型活動の実践として「まちじゅうライブラリー」という本の展示を行いました。
静岡県長泉町では、本と人を繋ぐ「BOOK PARK」というイベントを開催しました。長泉町は静岡県において最も人口増加率が高く、地方創生のモデルとして注目されている自治体です。一方で、その豊かなまちにおいて、現在書店は一軒も営業しておりません。このような現状から、長泉町と弊社で「本屋がないまちで、本を起点に、より豊かなコミュニティをつくること」を目的に、静岡県や近隣県の書店がイベントに出店し、現地で各店の書店員が直接来場者に本を販売することで、本との接点だけでなく、書店との新たな接点をつくるイベントを企画しました。
このように、本との接点が減ってきている中で、いかにして本を起点に、より豊かなコミュニティをつくることができるか、日々、自治体や地域の人たちと共に挑戦を続けています。
―― 「社会教育士」の称号を取得されたきっかけとは?
公共空間のプロデュースやまちづくりといった分野に関わるお仕事をしていく中で、行政や住民との連携だけでなく、地域の課題を理解し、解決していくためのノウハウを身に着ける必要があると感じ、社会教育士を取得することにしました。
最初は、弊社代表の染谷が主事講習を見つけました。企業で、地域の課題解決に精通した人材がほしいなと探しており、見つけた瞬間「これだ!」と思ったそうです。
ただ、業務の都合上、染谷の受講が難しかったため、社会教育施設のプロデュース業務を担当しており、教員免許や司書の資格を持っている私が受講する流れになりました。
1カ月近く業務を離れる必要があったため、仕事に影響がでないか不安な部分もありましたが、オンラインでも受講が可能だったことと、何より染谷が「地域に関わるうえで必ず役に立つだろうから受講した方が良い!」と背中を押してくれたので、安心して受講することができました。
私は民間の企業に勤めておりますが、まちづくりや地域活性化といった行政機関が関わる領域の仕事を業務としているため、行政やまちの人とお話をするうえで、社会教育士の称号をもっていることが社会教育について学んできた人材であるという証拠として、一つの安心材料になれば良いと考えております。
―― 実際「社会教育主事講習」を受けられてどうでしたか?
受講生のほとんどが教員や自治体の職員さんで、最初は「場違いなところに来てしまった…」とも思いましたが、実際に公民館や学校など現場で働かれている方の生の声をきくことができたのはとても勉強になりましたし、皆さんが前向きに受講される姿はなによりのモチベーションになりました。
社会教育の基礎知識からファシリテーションまで、様々な講義を受けました。自治体のマスタープラン(基本計画)の構成や、実際に特定の自治体の事業を企画するワークは特に現在の業務にも役立っています。
自治体のミッションや方向性、どんな未来を描いているのかなど、マスタープランの読み方を理解したことで、その地域に対する解像度も上がりましたし、自治体の方と同じ方向を向いて仕事ができるようになったと感じています。何より、自分が請け負った事業が、その地域の中でどのように位置づけられるのかをきちんと理解できるようになりました。
また、受講後には、弊社が本のプロデュースを担当している千葉県旭市にある多世代交流施設「おひさまテラス」に、主事講習で出会った仲間が実際に視察に来てくださるなど、受講後の繋がりもできて、主事講習を受けて本当に良かったと思いました。
参加者の「やりたい」を引き出す「社会教育士」
―― 社会教育士として意識していることはありますか?
普段の仕事で大事にしていることは、実際に自分の目でまちを見て、直接地域の方とお話をすることです。公共空間でイベントやワークショップを企画運営する際には、地元で活躍されているプレイヤーさんや地元の食材など、なるべく地域資源を活用するようにしています。
まちの活動に参加してもらうことはまちづくりの観点でも大切ですが、意欲をもって主体的に活動に参加することは自己実現や生涯学習といった社会教育の観点でも大切なことだと考えています。外部の視点からまちの魅力を発掘し、そこで得た情報を住民に知ってもらうという、ハブ的な役割を担うことができるのは社会教育士だからこそできることだと思います。
実際に、先述した常総市では、「地域資源(ひと、もの、こと)を使ってできること、やってみたいことを考える」というワークショップを開催しました。
そこでは、市民の方から「家の軒先にベンチを置いて、町の人がちょっとゆっくりできるスペースを作ってみたかったんだよね。」というような声や「自分が作ったアート作品を皆に見てもらいたいと思っていた。」というような、主体的な「やりたい」というお声を聴くことができました。
参加者から意欲的な声を引き出すことができたのは、「みなさんの普段の活動や、やってみたいの気持ちも地域資源になりますよ」という声かけが一つのきっかけになったからかもしれません。
そういったやりとりを繰り返していき、「やりたい」の声を引き出した時は、まちの人と社会教育士らしい関わりができたと実感します。
そのような声はアンケートなどではなかなか集めることが難しいので、やはり直接お話を聞いたり、実際に足を運んだりすることで、まちの方の普段の活動を私自身が知ることが何よりも大切だと感じています。
自然とまちを知る、まちの人の顔がわかる「地域」を目指して
―― 社会教育士として活動していく意気込みを教えてください!
私は「社会教育士」を名刺に記載しているのですが、まだまだ認知度が低いようで、毎回「社会教育士ってなんですか?」と、民間企業の方はもちろん、行政の方にも必ず質問を受けます(笑)
私はその度に「人と人、人と地域を結ぶ地域コーディネーターです!」と言い換えて説明しているのですが、それでも「本の会社さんが、地域と人を結ぶ…?」と、さらに頭にはてなを浮かべられることが多々あります。
私の社会教育士としてのミッションは「人と本、本と地域を結び、くらしをより豊かにすること」だと考えていますので、「人と本、本と地域を結ぶきっかけづくり」をもっと全国に発信していき、社会教育士の知名度も一緒に上げていければと思っています。
本に関わる民間の会社だからこそ、全国に広く目を向けつつ、様々な角度から地域や人々を結ぶお手伝いを社会教育士として今後も続けていきたいです。
本を取り巻く環境は大きく変化しています。書店ゼロの自治体は全国で約26%に上り、地域社会における文化との接点が減少しています。また、図書館や公民館などの施設に求められる機能や役割も大きく変化し、本や本のある空間へのニーズも多様かつ複雑化してきました。
書店も図書館も公民館も…それぞれが地域の大切な文化発信拠点であり、人と本、本と地域が繋がる場です。私は社会教育士として、そのような場所を全国に広げ、本や文化コンテンツを通して、日常生活の中で自然とまちを知る、まちの人の顔がわかる、そんな地域を創っていきたいと思います。
◆その他の情報コーナー
★社会教育士特設サイト社会教育士
について、詳しくはコチラをご覧ください。↓↓↓
★「社会教育人材の養成及び活躍促進の在り方について(最終まとめ)」
中央教育審議会生涯学習分科会社会教育人材部会において「社会教育人材の養成及び活躍促進の在り方について(最終まとめ)」(令和6年6月25日)が取りまとめられました。↓↓↓