
【特集記事】公民館で展開される営利事業~社会教育法第23条第1項第1号を解釈する~
「社会教育士note」フォロワーの皆さん、いつも「社会教育士note」をご覧いただきありがとうございます。
今回は特集記事として、社会教育関係者の皆さんからの問い合わせが多い社会教育法第23条第1項第1号を取り上げ、公民館の営利事業について皆さんと考えたいと思います。
社会教育法第23条第1項第1号の規定の意味
社会教育法第23条第1項第1号では、公民館と営利事業について規定しています。
第二十三条 公民館は、次の行為を行つてはならない。
一 もつぱら営利を目的として事業を行い、特定の営利事務に公民館の名
称を利用させその他営利事業を援助すること。
この規定から、「公民館では、営利事業が全面的に禁止されている」と捉えられている方もいるのではないでしょうか?
しかし、この社会教育法第23条第1項第1号の規定は、公民館が営利事業に関わることを全面的に禁止するものではありません。
この規定の趣旨は、社会教育法第20条に掲げる目的を没却して、もっぱら営利のみを追求することや、特定の営利事業に対して、使用回数や使用時間、使用料等に関して優遇するなど特に便宜を図り、それによって当該事業に利益を与えることを禁止するものです。
第二十条 公民館は、市町村その他一定区域内の住民のために、実際生活に
即する教育、学術及び文化に関する各種の事業を行い、もつて住民の教養
の向上、健康の増進、情操の純化を図り、生活文化の振興、社会福祉の増
進に寄与することを目的とする。
通知・事務連絡による解釈の周知
上述のような本規定の解釈については、これまでも文部科学省から各都道府県・指定都市教育委員会あてに以下のような通知や事務連絡をもって周知しています。
「社会教育法第23条第1項第1号の解釈について」(平成25年3月26日)
この通知では、本規定の趣旨を以下のとおり周知しています。
※なお、「社会教育法第23 条第1項の解釈の周知について(依頼)」(平成30年12月21日)においても同様の趣旨の周知を行っています。
1 法第23条第1項第1号の趣旨について
法第23条第1項第1号では、公民館が「もつぱら営利を目的として事業を行い、特定の営利事務に公民館の名称を利用させその他営利事業を援助すること」を禁止している。
本規定の趣旨は、公民館が、法第20条に掲げる目的を没却して専ら営利のみを追求することや、特定の営利事業に対して特に便宜を図り、それによって当該事業に利益を与えることを禁止するもので、公民館が営利事業に関わることを全面的に禁止するものではない。
また、解釈に加えて、以下の具体的な事例についても取り上げています。
(2)地域の芸術振興のための個展における作品の販売
① 公民館が個展を主催する場合
公民館が専ら営利のみを追求することは禁止されているところであるが、法第20条に掲げる目的のために実施する事業であれば、その一環として作品の販売を行うことは、法第23条第1項第1号で禁止される行為には当たらない。
ただし、特定の者に特別の利益を与える意図をもって事業を実施することは、同号における「営利事業を援助すること」に当たるため禁止されている。また、作品の販売を営利事業者に委託する場合は、当該事業者が公正に選定されるよう留意する必要がある。
② 個展を行う事業に対して公民館の施設を供与する場合
公民館が、特定の営利事業に対して、使用回数や使用時間、使用料等に関して優遇するなど、特に便宜を図り、それによって当該事業に利益を与えることは禁止されているところであるが、公民館の施設を供与する事業が作品の販売を伴うものであっても、公正に施設の供与を行うのであれば、法第23条第1項第1号で禁止される行為には当たらない。
「社会教育法第23 条第1項第1号の解釈の周知について(依頼)」(令和5年12月14日)
令和5年度には、各地方公共団体と民間企業等との連携を更に促進するため、従前のような解釈の周知にとどまらず、文部科学省が実施した調査の結果も踏まえ、公民館で実施し得る事業の具体的な事例を以下のとおり示しています。
①公民館が主体で行うもの
・公民館講座において講座の維持・継続に必要な受講料を徴収する。
・公民館講座実施後に受講生の教養の向上のために講師の著作物の販売を行
う。
・公民館講座の一環として、講座内で創作した物品の販売を行う。
・映画館のない地域において、地域住民の教養の向上のために映画を上映す
るにあたり、相応の入場料を徴収する。
・高齢化が進む状況を踏まえて、葬儀場を経営する企業に、終活のアドバイ
スとなる講座の開催を依頼する。
・地域住民のレクリエーションとして著名人等のコンサートやイベントを開
催し、その際にグッズの販売を認める。
②公民館以外が主体となって行うもの
・イベントを行う際、キッチンカー等に飲食物の販売を認める。
・地域の学校、認定こども園、保育所等が実施するフリーマーケットについ
て、循環型社会の推進や地域住民の交流に寄与するものと判断し、公民館
の貸し出しを認める。
・大人数が集まれる会場がない地域において、地域にある学校の行事や民間
会社等の会議に公民館の貸し出しを認める。
・金融機関が少ない地域において、住民の利便性に寄与するため、公民館内
にATM や金融機関の支店の設置を認める。
・いわゆる買物弱者を支援するため、公民館内にスーパーマーケットの出店
を認める。
・地域住民の就労支援のため、企業による面接会場として公民館の貸し出し
を認める。
・地域の伝統的行事の一環としてのお菓子の販売を、伝統行事存続のため、
公民館での販売を認める。
・地域特有の農作物の認知度を向上させるために、地域特有の農作物を取り
扱ったマルシェの開催を認める。
・本場のクラシック音楽になかなか触れることが難しい地域において、地域
住民の文化的教養の向上に資することから有償の入場料でのクラシックコ
ンサートの開催を認める。
・ダンス教室や塾に通うことが難しい地域において、地域のこどもの体力や
学力向上のため、月謝制のこども向けダンス教室や塾の開催を認める。
・法第20 条で規定する公民館の目的に資するとして実施を認めた営利事業
における事業所の名称について、立地を表すものとして○○公民館店や
○○公民館校など、公民館名の利用を認める。
・理容室や美容室が少ない地域において、地域住民の公衆衛生の向上の観点
から、定期的に理容室や美容室に公民館の貸し出しを認める。
・入札等の公正な方法により施設命名権(ネーミングライツ)を売却する。
※これらは本年文部科学省が実施したアンケート等で得られた活動の事例の
一部です。
(令和5年12月14日)より抜粋
公民館の積極的な活用に向けて
令和5年12月14日の事務連絡のみを目にした方の中には、「23条第1項第1号の解釈が変わったんだ」と思われる方もおられるかもしれません。
しかし、過去の通知や事務連絡からもわかるように、社会教育法第23条第1項第1号の解釈は変わっておらず、上述の事例のように、営利事業もかねてより認められています。
公民館は、社会教育を通じた人づくり・つながりづくり・地域づくりの拠点です。民間企業やNPO法人など、地域の実情に合わせて多様な関係者と連携することは、地域における学びと実践をより豊かにすることにもつながるのではないでしょうか???