地域おこし協力隊と社会教育【地域おこし協力隊OG×社会教育士】
今回は、元島根県雲南市の地域おこし協力隊で、昨年「社会教育士」の称号を取得された三瓶さんに、「社会教育士」称号取得のきっかけや、現在の地域独自の魅力や価値を向上させる専門家としての活動にどのように社会教育が活かされているのかについてお話を聞きました!
[島根県]
つちのと舎代表、一般社団法人しまね協力隊ネットワーク代表、総務省地域おこし協力隊サポートデスク専門相談員、総務省地域力創造アドバイザー
三瓶裕美(さんべひろみ)さん
1975年東京都生まれ。体育学科を卒業後、美容・健康関係の仕事に携わる。2011年、東日本大震災を機に農ある暮らしを求めて移住し、島根県雲南市地域おこし協力隊となる。任期後は「つちのと舎」を開き、自然農の田畑や民泊・カフェをする他、小中学校でのダンス講師など多業で暮らす。2020年度島根大学社会教育主事講習を受講し、社会教育士を取得。
【つちのと舎】 http://tsuchinotoya.space/
【一般社団法人しまね協力隊ネットワーク】https://shimaneknw.localinfo.jp/
「つちのと舎」~雲南で営むからだづくりと農ある暮らし~
―― 三瓶さんの現在の活動について教えてください。
2011年7月に東京から島根県雲南市へ移住し、地域おこし協力隊の活動を経て、空き家を改修して始めた民泊&カフェ「つちのと舎」を夫婦で営んでいます。
他にも色々な地域サイズで様々な活動をしていて、地域自主組織「日登の郷」では広報紙の編集担当、雲南市では小中学校の体育活動コーディネーターとしてダンスや表現運動の講師、雲南圏域(雲南市、奥出雲町、飯南町)では「FMいずも」のラジオパーソナリティーとして「ルーラル雲南」という番組制作、島根県では一般社団法人しまね協力隊ネットワークの代表、全国規模では地域おこし協力隊サポートデスク専門相談員として活動しています。
―― 三瓶さんの活動拠点である「つちのと舎」について、詳しく教えてください。
「つちのと舎」は「からだと食と農のつながるスペース」として、民泊やカフェ、ボディケアをしています。地域おこし協力隊の任期後、定住する拠点を探す中で見つけた家で、雲南市の「空き家付き農地取得制度」を利用して、空き家と農地を一緒に購入しました。民泊としては、雲南市の移住体験プログラムと連携して、移住検討中の方に泊まっていただくことが主です。カフェとしては、週1回ほどですが、自給や出雲圏域・島根県内、そして協力隊つながりなど友人たちが作っている食材を使ってごはんやスイーツをつくり、夫が自家焙煎している珈琲とともにお出ししています。ボディケアについては移住前からの生業で、つちのと舎では「体ほぐしの会」などを開いています。
つちのと舎をしている目的としては、「人が集まる場づくりをしたい」というのがあり、移住者交流会や暮らしを楽しむイベントを友人たちとコラボして開くなどもしています。
地域と教育のつながりを表す「社会教育士」
―― 「社会教育士」になろうと思ったきっかけを教えてください。
私は地域おこし協力隊のOGで、地域おこし協力隊サポートデスク専門相談員として、地域おこし協力隊のサポートにあたるなど、地域に携わってきました。そうした中で、教育の大切さを感じるところがあり、2018年度に島根大学の地域・教育コーディネーター育成プログラムを受講しました。そこでは教育から地域をよくしていこうと働きかける方々と出会い、ともに学び、「私も教育に軸足を置いた仕事に移るべきか?」と考えることもありました。しかし、学んだ結果として、私は地域に軸足を置いて、教育に関わるコーディネーターで在りたいと思い至りました。
ただ、実際のところは地域の方で活動するほどには、教育の方での活動はできずにいました。そうした中、2020年度に社会教育士制度が始まるのを見つけて、称号が得られるということから、自分の中の「教育」への関心をもう一歩くっきりさせるのにいいなと思いました。また教育について「これから」のことだけでなく、社会教育の系譜など「これまで」のことなども体系的に学んで、基礎をしっかりしたいと思いました。
それで島根県の社会教育主事講習を受講して、社会教育士の称号を取得しました。
―― 社会教育主事講習を受講されて、変わったこと良かったことはありますか?
社会教育士として求められるファシリテーション能力やコーディネート能力などは、これまでも地域おこし協力隊関係の活動を通して、知識や経験を積んでくることができました。今回の講習では、こうした自分の現在点を俯瞰して見ることができ、強みと弱みを認識することができたのは大きかったと思います。また、社会教育に関わる色々な立場の方々と一緒に学ぶことで、視点を増やすこともできたように思います。
また、生涯学習・社会教育に関して、その成り立ちから学ぶことができました。例えば、コミュニティ・スクール推進の背景などがわかり、地域づくりの現場でも活かせることだと思いました。
その人の内側に持っているものが輝きだす「足し算の支援」
―― 三瓶さんの活動の中で、講習で学んだ「社会教育」が活かされていると思うところはありますか?
活動の中に「社会教育」が活かされている。というより、活動の中に「社会教育」があることに気づいた。という感じです。
地域おこし協力隊として活動する中で、地域づくりには「足し算の支援」(寄り添い型支援)と「掛け算の支援」(事業導入型支援)があることを学びました。(「地域づくりの足し算と掛け算の法則」稲垣文彦氏・総務省地域おこし協力隊サポートデスクスーパーバイザー)
「掛け算の支援」とは「事業導入型支援」のことです。新しい事業の立ち上げなど、目に見えやすい取り組みで、メディアでも取り上げられやすく、「地域おこし」というとこのような活動をイメージされる方も少なくないでしょう。一方で、「足し算の支援」とは、「寄り添い型支援」のことです。住民の不安や悩みに寄り添い、小さな成功体験や共通体験を積み重ねていくことで、住民が地域への自信を取り戻し、愛着を表現できるようになるなど、地域の主体性を上げていくための支援です。成果が目に見えづらいのですが、とても大切な活動です。地域が自信や主体性を持てていないところで「掛け算の支援」を行うのは、かえって地域づくりにとって逆効果になることがあります。そのような地域でまず大切なのは「足し算の支援」で自信や主体性を取り戻していくことです。この「足し算の支援」は、すごく「社会教育」的だなと感じています。
私の地域おこし協力隊時代の活動は、主に「足し算の支援」だったのですが、足し算の支援を行う中で、その人の内側に持っているものが輝き出し、一人ひとりの力がより輝くようになる場面に何度も出会いました。私は、その個々の輝きの集合が社会であり、地域づくりだと思っています。
ちなみに「地域づくりの足し算と掛け算の法則」を地域おこし協力隊時代には知らなかったのですが、卒業してサポートの仕事をする中で知り、私の地域おこし協力隊時代の活動は、主に「足し算の支援」だったと気がつきました。隊員時代、地域の方のお話しをゆっくり聞く中で、はじめは地域に対してネガティブな言葉を重ねていた方が、ポツリポツリと地域愛を感じさせる言葉を出されるようになって、本当は好きなんだ、大事なんだ、と感じることがたびたびありました。
私は元々、セラピストを長くやっていたのですが、セラピストとしてお客様の話しを聴いて心や体をほぐすのと、地域おこし協力隊として地域の方の話を聴くことは似ているなぁと感じたものでした。いろいろな人の話を聴くことで、地域が今どういう状況かなど、地域を俯瞰的に見ることができたのはよかったです。
そのような経験から、私にとっては社会教育士になった後に活動の中で社会教育が活かされているというよりも、地域おこし協力隊時代から私が取り組んできたことの一部は「社会教育」とも言えるんだということに気が付きました。
地域づくりは人づくり
―― 文部科学省では、学びを通じた地域づくりを推進していますが、「文部科学省が地域づくり?」と反応されることもあります。三瓶さんは、地域づくりと教育のつながりをどのように感じていますか?
地域おこし協力隊の活動をしていたときに、山の中で暮らすおばあさんが畑の草抜きをしながらがボソッと言った言葉が、今も胸に刺さっています。
「みんな、勉強して、頭良うなって、出て行ったよ。」
これまでは「勉強して都会に出て、良い大学に入って、良い会社に入るのが幸せ」という、画一的な価値観があり、こうした生き方がある程度幸せを担保していた時代もあったのだと思います。しかし、社会が大きく変化していく中で、このような生き方だけが幸せとは限らず、多様な生き方に価値を感じる人が増えてきたように思います。
そして何を学んだか、誰と出会ったかで、人生の選択肢は変わってくると思います。私が住む島根の子どもたちを見ていると、地域の人たちの協力で、地域ならではの体験や学びを重ねています。親御さんの時にはほとんどなかったことで、子どもたちから地域のことを知ったというような声も聞きます。このような経験をした子どもたちが将来大人になった時、どのような選択をするのか、どのような道を切り拓いていくのか、楽しみですね。
そういう意味で、地域づくりと“学び”は密接な関係があると考えています。
地域おこし協力隊と社会教育
私は隊員時代、地区担当として交流センター(元公民館)に席をいただいて、交流センターが活動拠点となっていました。訪れて来られる住民のおじいさんおばあさんと、主事さんがお話しされるのを聴きながら、地域のことを知り、出雲弁になじみ、地域の皆さんとお話しできるようになりました。主事さんは15年以上この地区の主事を務められ、地区のことはなんでも知っている方で、社会教育という言葉を知ったのはこの方からでした。じっくりと地域について学び、地域とつながった活動から学んだこと・気づいたことは、現在、地域おこし協力隊サポートデスクの専門相談員として活動する上でも、大切な基礎となっています。
また、協力隊の任期後、市内の別地区に引越ししましたが、こちらの地区は戦後まもなくから公民館活動がとても盛んな地区で、その頃から「地域づくりは人づくり」という言葉を掲げています。こうした動きを牽引されたのは当時の中学校の校長先生なのですが、地域と教育のつながりを大事にした先生の教えは、今も地区で大切にされ、地域活動が盛んな地域文化が育まれています。移住者も多く、地元の方々とともに地域づくりに取り組んでおり、社会教育が地域に及ぼす影響を深く感じています。
そして、地域おこし協力隊が活動をしていく中で、地域をよく知る人、地域の人とつないでくれる人と出会うことはとても大事ですが、こういう人とは公民館などの社会教育施設で出会いやすいのではないか?と思っています。また、昨年度、社会教育主事講習でご一緒した社会教育施設にお勤めの方が、その地域の地域おこし協力隊と知り合っておられないことがありました。とても素敵な活動をしている隊員さんたちが居られる地域だったので、ぜひ知り合ってもらうと、お互いにとっていいのでは?と思いました。隊員OBOGで定住した友人の中には地域コーディネーターとなって、コミュニティスクールに関わる人もいます。地域おこし協力隊と社会教育の有機的なつながりは、地域をより元気にしていくように思います。
― 三瓶さんにとって、「社会教育」とは?
難しい質問ですね。学校教育との対比でお話すると、学校教育では、基本的に先生と同級生という限られた人たちが集まっている世界ですが、大人社会では、同学年だけでなく、幅広い年代、タイプの違う人たちと関わっていくわけで、この学校教育と大人社会の間をつなぐところに社会教育が存在していると思います。
色で言えば、学校教育と社会のそれぞれの色があり、それは決して分かれているものではなく、学校側も社会側もその間のグラデーションゾーンを作っていこうとしていて、それをつなぐのが社会教育という認識ですかね。
社会教育を知ることは、地域の魅力を引き出す力になる
―― 最後に、地域おこし協力隊や移住支援に携わろうとする人に、社会教育を学ぶことのメリットを教えていただけますか?
私の場合は移住して地域おこし協力隊になってから社会教育と出会い、地域でさまざまな経験を重ねてから社会教育について学びましたが、昨年度から社会教育士の制度が始まり、広く学べる機会が用意されました。社会教育主事講習の中では、ファシリテーションやコーディネートについて学ぶことができますが、協力隊や移住支援など地域で活動するときに役立つものだと思います。地域と教育をつなぐ社会教育士という素養と称号を身につけ、地域づくりに携わる仲間が増えることを願っています。
★社会教育士について、詳しくはコチラを御覧ください。↓↓↓