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『社会教育士を訪ねて』2024 in ちばユースセンターPRISM

 今回は、オープン前のちばユースセンターPRISMを訪問してきました。オープンまでの過程やその中で社会教育士がどのように関わったのかなどいろいろな角度からお話をうかがってきましたので、その内容をレポートさせていただきます。

ユースセンターとは

 「ユースセンター」という場所をご存知でしょうか。「ユースセンター」とは、中高生や大学生を中心とした若者が、自分の好きな時に集まり、勉強をしたり友だちとゲームやおしゃべりをしたりしながら自由に過ごすことのできる学校でも家でもない“第3の居場所”のことです。もちろん、おかしを食べたり仮眠をとったりすることもできます。ユースセンターには、ユースワーカーと呼ばれる方が場の運営を行っており、自由に過ごしつつも、自分の好きなことや、やりたいことなどを見つけて挑戦することもできます。

 「ユースセンター」のような若者の居場所が必要とされている背景について考えてみたいと思います。まず、令和5年3月に内閣官房こども家庭庁設立準備室より公表された「こどもの居場所づくりに関する調査研究報告書」によれば、こども・若者の約5人に1人(18.7%)が「居場所が欲しいのに、ない」と感じていることがわかりました。また、居場所がない理由については、「住んでいる地域にそのような場所がないため」が最も多く、年齢が上がるにつれて、その回答率は上昇しています。


内閣官房 こども家庭庁設立準備室(2023) こどもの居場所づくりに関する調査研究報告書、p.68,69
https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/db46916f-2963-4114-917d-8677e2761a90/837d3c6e/20230323_ibasho_houkoku.pdf

 一方で、「令和4年版子供・若者白書」によれば、「居場所」だと感じる場所が多いほど自己肯定感が高く、将来へ希望を感じているなど、居場所の数と前向きな感情は、概ね相関するという結果も出ており、子どもたちが自分自身を肯定し、将来に希望を持って成長するためには、居場所の存在は重要な要素と言えます。


内閣府(2022)令和3年度 子ども・若者の状況及び 子ども・若者育成支援施策の実施状況 (令和4年版子供・若者白書)、p.11 https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_gian.nsf/html/gian/gian_hokoku/20220614kodomogaiyo.pdf/$File/20220614kodomogaiyo.pdf

 筆者は、とあることがきっかけで、「ユースセンター」という場の存在を知り、仕事柄、もし、こういう場に社会教育士がいたら、若者にとって、とても素敵な居場所になるのではないかと思っていました。
 そんな中、筆者が社会教育士の称号を取得したときの仲間から、ユースセンターのオープンに向け、社会教育士としてお手伝いをしているとの情報が手元に届きました。「これは行くしかない!」と思い、早速足を運んでみることにしました。

実際に現場を訪問!

 残暑が厳しい9月初旬。霞が関から東京メトロ、総武線と乗り継いで、西千葉駅に到着しました。西千葉といえば千葉大。千葉大といえば西千葉というくらい切っても切り離せない存在です。西千葉駅から線路沿いに稲毛駅方向に歩くこと7~8分。千葉大の正門のすぐそばに、オープン前のちばユースセンターPRISM(以下、「PRISM」という)がありました。
 階段を使って2階にあがり、扉を開けると、9月21日のオープンに向け、急ピッチで内装工事が行われていました。PRISMは、一般社団法人Spiceが運営しています。今回のインタビューでは、共同代表である郡司日奈乃さんと小牧瞳さん、そして、PRISMの立ち上げに関わり現在も運営に参画されている社会教育士の大西雄太さんからお話を伺うことができました。

ちばユースセンターPRISMについて

-Spiceの事業概要とPRISMの特色について教えてください。

 令和5年に教育学を専門とする千葉大学大学院生の私たち二人が一般社団法人Spiceを創業し、その中のひとつの事業としてPRISMを運営しています。すべての年齢、すべての性別、すべての国籍、すべての人が安心して暮らせるインクルーシブな社会の実現をビジョンに、自分や他者が困った状況におちいったとき、規模の大小を問わず様々なアクションを起こせる市民になるためのきっかけを届けることをミッションとしています。
 そのためのアプローチの1つが、PRISMで、「何かやってみたい」という思いを持つこども・若者が集まって作戦会議を行ったり、大人たちが伴走をしたりする活動を中心においています。PRISMは、「こども・若者の第3の居場所がある」「余暇時間を過ごせる空間がある」という一般的なユースセンターの役割に加え、社会課題解決にトライするための起業、政策提言や陳情などのルールメイキング、地元企業とのコラボレーション企画など「地域や社会参画への入り口」という機能も大事にしています。


〇オープンまでの道のり(社会教育士の活躍)

-オープンまでの道のりを教えてください。そして、社会教育士の大西さんはどのように関わられたのでしょう。

 まず、PRISMを開設するにあたっては、50人くらいの若者が参加し、6回のワークショップを開催しました。居場所は与えられるものではなく、若者自身でつくるものというコンセプトのもと、企画段階から社会教育士である大西さんに関わってもらいました。ワークショップ当日は、行ってみたい、居心地がいいと思える理想の活動拠点・たまり場を参加者同士で話し合い、みんなで拠点の内装デザインを考えました。ワークショップをはじめ、対話を大切にし、全ての人が決定に参画できるような場づくりができるかが、社会教育士の腕の見せ所だと思います。

ワークショップの様子①
ワークショップの様子②

 ほかにも、PRISMのすぐ近くにある株式会社ZOZOに御協力いただき、PRISMのロゴをつくるワークショップも開催しました。ワークショップに参加した若者たちがそれぞれ考え抜いた案を発表し、10案が出揃いました。ワークショップに参加した全員が1票ずつを持ち、投票を行い、3案に絞りました。絞った中でも、参加者の中から意見を書き起こし、一つ一つどのように取り入れていくのかを検討しました。このような対話を重ねたからこそ、PRISMという名称に込めた思いをデザインに込められたのではないかと思っています。

ロゴづくりワークショップ

 この2つのワークショップでは、社会教育主事講習で学んだファシリテーション能力を生かし若者がもつアイディアを引き出し、それを形にできるよう、終始お手伝い役に徹しました。事前に、いろいろな若者が集まってくることを想定し、多様なアイディアが出てくるような適切な場づくりや若者との接し方がとても重要だと考え、さまざまイメージをしていました。あまり表に出過ぎず、基本的にはみんなのやりたいことを実現していく「縁の下の力もち」のような存在であることを心がけました。その結果、ワークショップを通じて、下の図のような場をつくることになりました。

PRISMの完成イメージ

 イメージができあがったものの、どうやって実装するかが問題になりました。予算も人も足りません。居場所は与えられるものではなく、若者自身でつくるものというコンセプトを思い出し、我々と若者たちでやるしかないでしょうということになりました。早速、DIY会と称してイベントを企画し、多くの若者が集まって、イメージを実装していきました。「金がなければ知恵を出せ」ですね(笑)。

-ワークショップをとおしてでき上がったイメージを実装するのに、社会教育士の大西さんは、どのような役割を果たしたのでしょうか。

 大西さんが本領を発揮してくれたのは、ユースセンターの利用者たちにとって「居心地の良い空間」を作るために必要なハード面とソフト面のさまざまな工夫です。
 ハード面では、大西さんを筆頭にメンバー総出でDIYに挑戦しました。ワークショップの中で「黒い床が重たいイメージになってしまうから、明るくしてほしい」という意見がありました。業者の方に依頼するとかなり費用が嵩んでしまうため、自分たちでフロアタイルを選び、1枚ずつ貼り付けていきました。また、他の参加者から「木の温もりが欲しい」という意見があり、千葉県のブランド杉であるサンブスギを使ったカウンター机と可動式ステージを設置しました。室内に元々あったレンガ壁が木目と雰囲気が合わないため、自分たちで木材を買ってきて、壁もDIYしてみました。こうしてひとつひとつ、込められた想いを形にしていきました。
 ソフト面では、こども若者たちにヒアリングを重ねながら、PRISM内でのグランドルールの策定をお願いしました。また、スタッフ-利用者間や利用者同士が連絡できるように、LINEオープンチャットの作成についても計画しているところです。
 こういった大西さんの引き出しの多さは、これまでの活動をとおして、多様な方とつながり、ご自身の活動をアップデートさせてきたからこそだと思います。社会教育士の魅力は、こういうところにもあると思っています。

Before                                                                                After

〇最後に~ちばユースセンターPRISMを見学して~

 お話を伺っていた中で、共同代表のお二人が、学校ではできないことに取り組めるのが社会教育のよいところとおっしゃっていました。PRISMは、指導という形ではなく、教育(Education)のラテン語の語源でもある「引き出す」ということを大切にし、こども・若者がやりたいことに伴走していける場所であり続けたいそうです。そのためには、社会教育士の存在が重要になってきます。社会教育士が、こうした場で学びをしかけ、いかにこども・若者の居場所として機能させていくかが成功のカギを握るのではないかと思いました。
 実際に共同代表のお二人が、口を揃えて、「大西さんのお人柄はもちろん、大西さんが社会教育士としてさまざまな領域の方とつながり、情報収集されているからこそ、こども若者たちにとって居心地のよい場所とは何かを探究することができ、ユースセンターのオープンにこぎつけられたと思っています。」とお話されていました。
また、PRISMは民設民営で運営をしているので、お金の使い道もある程度融通が利き、生きる、遊ぶ、学ぶ、人とかかわる中で、あまりルールに縛られず、予定調和的できないところに魅力を感じてもらいたいともお話をされていました。
 今後のPRISMを注目していきたいと思います。読者のみなさんも一度訪れてみてはいかがでしょうか。
最後までお読みいただきありがとうございました。

※PRISMは、令和6年9月21日にオープンし、魅力的な居場所づくりとなるよう、いろいろなプログラムをしかけています。

<お問い合わせ>
一般社団法人Spice https://spice-edu.org/
代表理事 郡司日奈乃
info@spice-edu.org