「過疎発祥の地」島根県益田市の社会教育課長が仕掛ける「選ばれる」まちづくり【移住支援×社会教育士】 前編
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「過疎発祥の地」島根県益田市の社会教育課長が仕掛ける「選ばれる」まちづくり【移住支援×社会教育士】 前編

[島根県]
益田市教育委員会ひとづくり推進監(併)社会教育課長
大畑 伸幸さん
1962年島根県益田市生まれ。小学校8年、中学校10年、社会教育行政19年と様々な教育現場を経験。
平成26年度より2度目の益田市教育委員会勤務で、29年度より現職。「持続可能な地域づくりのために持続可能なひとづくり」を推進するため、社会教育を市の施策の中核に置くことで行政の部署間の横ぐしを刺し、各種施策を展開中。
※活動事例は、社会教育主事有資格者の事例です。

持続可能な地域づくりは、「ひとづくり」から

—まず、大畑さんのひとづくり推進監(併)社会教育課長という肩書きが気になります。大畑さんのお仕事について教えてください。

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 益田市は、「未来の担い手育成」、「産業の担い手育成」、「地域づくりの担い手育成」を市の施策の柱とし、この三つの人作りを全庁を挙げてやることとしています。私は、社会教育課長ではあるんですけど、その益田市の「ひとづくり」を全庁的に進める立場として教育委員会の枠を超えた「ひとづくり推進監」という役職をもらってやっているところです。さらにこの4月からは、社会教育課が「協働のひとづくり推進課」という名前に変わりました。

—益田市はなぜ「ひとづくり」に力を入れて取り組むことになったのでしょうか?

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 平成27年に総合戦略(市町村まち・ひと・しごと創生総合戦略)を策定するにあたって、「消滅可能性都市」の自治体リストが公表されました。その際、益田市は「消滅可能性都市」として名前が挙がり、市の人口推計では、2040年には現在より24%も人口が減って、人口約4万4千人の街となり、高齢化率は約41%になるという数値が出ていました。このままいけば益田も本当に消滅してしまうだろうという危機感のもと、「いかにして持続可能な地域を作っていくか」ということを益田市では話し合いました。
 そのとき出した結論としては、「今頑張ってる人をさらに頑張らせるだけでは、持続可能な地域づくりとは言わないだろう。どんどんどんどん人がつながり、どんどんどんどん次の担い手が出てくるようにしていかないと、持続可能な地域にならないから、いずれは消滅するだろう。であるならば、総合戦略においては、『ひとづくり』というものを柱にして進めていくことがとても大事だ。持続可能な地域づくりのためには持続可能なひとづくりが必須である。」ということです。益田市は、人口減少、高齢化率の上昇など、「人」に関わる大きな課題に今後直面していくが、その解決の基盤は、「ひとづくり」であると決意したのです。
 全庁をあげてひとづくりに取り組むために「ひとづくり協働構想」を立ち上げました。ひとづくりは、今頑張っている人を応援するだけの施策ではなく、未来への投資です。すなわち、ひとづくりとは教育であり、教育部局である社会教育課が全庁をあげた施策の中核になることになりました。

仕事のマッチングではなく、生き方のマッチングによるUターン・Iターンの推進

—具体的にはどのようなことをやっているのでしょうか?

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 「ひとづくり協働構想」が掲げられてからは、「益田で暮らしたい」という若者たちをいかに呼び込むかという視点から、平成28年から社会教育課が「ひとづくり」の一環としてUターン・Iターンの促進についてもかなりコミットするようになりました。
 現在のように社会教育課がUIターンの推進にかかわる以前から、益田では人口拡大課というUIターンを促進する課を作り、7年間頑張ってきました。従来のUIターンの受け入れでは、仕事をしっかり用意するというのがスタートです。しかし、マッチングの際、益田でUIターン向けに紹介する仕事から考えると、かなりマッチングの幅が狭く、仕事をベースにしたUIターン促進は益田では非常に難しいということが分かっていました。
 そこで私たちが「ひとづくり」の観点から考えたことは、1つは「ライフキャリア」です。仕事は人生の一部でしかないわけであって、仕事以外の趣味や家庭、仲間と過ごす時間であったり、様々なライフステージのすべてに人生の幸せの根源があるならば、仕事ではないところを大切にしたいという方たちも必ず一定程度いるだろうということで、「ライフキャリア」=いかに生きるか、私は一体何をしたいのか、人生で大切にしたいことはどんなことなんだろうか、ということを意識した方たちに来てもらうようなことにターゲットを変更しました。
 そのために、益田の人の生きざまや人の活動といった、人をテーマにしたホームページを立ち上げて、それを見て「益田で生きる」っていうことの意味を実感してもらえるような広報を展開しました。

——仕事をベースにしたUIターン促進は非常に難しかったとのことですが、そのように「生き方」をベースにしたUIターン促進は成果は出ましたか?

 まず、若者の移住希望者が増えました。若い人たちが、かなり「ライフキャリア」っていう言葉であったり、「いかに生きるか」っていうことであったり、「ひとづくり」、「地域づくり」という言葉には興味を持つ人が多く、特に大学生や働き始めた若い方たちにはライフキャリアを提案する広報は効いたという実感を持っています。
 もうひとつは、小・中・高校と地域活動を積み重ねた若者たちが、Uターンで戻ってきて、「益田でこんなことをしたいんだ」「益田のためにこんなことをしたい」っていう若者が益田の「ひとづくり」を掲げる教育の積み重ねの中で出てきました。つまり、仕事という観点だけではないところで益田を選ぼうというUターンもIターンも増えているというのが現実としてありますね。

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——仕事をベースにしたUIターン推進からライフキャリアを提案するUIターン推進に切り替えても、どうしても「仕事」というのは大事な要素になってくると思うのですが、ライフキャリアに興味を持った若者たちへの仕事紹介はどのようにしているのでしょうか?

 益田での暮らしを提案する広報によって、「ライフキャリア」「地域づくり」「ひとづくり」に興味を持つ若者が多いということは分かりましたので、働く場所としてまず取り組んだのが、「ひとづくり協働構想」を実現するための中間支援組織となる一般社団法人を移住した若者たちの手で立ち上げてもらうことです。その中間支援組織はユタラボという名前なのですが、そこがIターンの受け皿になっています。現在もインターン中の大学生を含めた13名が働いています。
 もう一つは、マルチワークという働き方を推進しています。マルチワーク的な働き方を産業部局と定住担当課と一緒に地域の企業に提案したところ、賛同する企業が出てきました。月1や週1の勤務を認める職場が農業も含めて増えてきて、3、4社で働くといった人も出てきました。1つの企業に就職という選択肢だけでなく、自分のやりたいことを実現するために、仕事も多様な働き方があるんだ、自分の特技を生かした仕事をしながら益田で暮らせるんだと分かってもらえるような、「仕事」というイメージを変えるような働き方を提案しているところです。

人の幸福度はより良い人間関係によって高まる

——大畑さんの仕事の中心は社会教育課の仕事になると思うのですが、これまでお話しいただいた移住促進のお話には社会教育の視点はどのように生かされているのでしょうか?

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 移住者が来やすくなるために、生活全体をデザインすること、コーディネートしてあげることがとっても大事だと思っています。生活、暮らしの全てを一緒になってデザインする、コーディネートするというのは、つまり、「人と人」や「人と活動」を丁寧につなぐことです。「丁寧につなぐ」というプロセスが社会教育であり、移住者を含めた益田で暮らす人たちがライフキャリアを満喫するために、仕事だけではなく暮らしの中でやりたいことを上手につないであげる、そのコーディネート役をするのが私たち社会教育の人間が果たすべき役割だと思っています。 
 行政はよく、人口減少や少子高齢化などといった地域の課題を提示して危機を煽ろうとするんです。しかし、危機を煽って課題解決にやる気を出して動いてくれるのはごくわずかな人で、多くの人は地域に対する「あきらめ」を抱きます。あきらめさせてはいけないんです。元気にさせなきゃいけないんです。社会教育の人間は人をつないで、周りをいかに巻き込んで活動を生み出すかということを常日頃から考えているのですが、そのような経験がない人からすると、危機感を煽ったら動いてもらえるというのは当たり前のことだと思っています。しかし、実際はそうではなく、危機感を煽ったら課題を解決するための活動が生まれるのではなく、人がつながることによって活動が生まれるのです。活動や人を丁寧に繋いでいくと、課題解決ができていることが多々あるんですよ。
 だから、まず最初にあるべきことは、「人をつなぐ」ことなんです。危機感を煽るのではなく、つながることの楽しさだったり幸せだったり、実感として「つながってよかったな」ということを社会教育が活動を通して伝えることができると、行政の他の部局もそのことに気が付いてくれます。
 ハーバードのメディカルスクールの75年に及ぶ追跡調査でも、人の幸福度は何によって高まるかというと、お金ではなく、人とのより良い人間関係だと出ています。幸せな地域を作るために行政があるのであれば、人の幸せは何だっていうことを市の施策のスタートにし、「人はどういうときに幸せを感じるの?」ということを考えていかなくてはいけないと思います。
 つまり、幸福度を上げる「人をつなげる」という営みである社会教育が、行政のベースにあるべきで、決して行政だけでは解決できないからと言って危機感を煽って地域の課題解決を促すようなことを地域の人にやってはいけないと思います。

——「人をつなげる」ということが、移住支援における社会教育の視点なのですね。

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 そうです。移住者はやりたいことや思いを持って移住してきます。移住者のやりたいことを実現するうえで、そして、それを益田市の力に変えていくうえで1番大事なことは、その「やりたいこと」をどこに行ったらできるのか、ということです。移住者の方に、公民館だったり、中間支援組織であるユタラボだったり、社会教育課であったりに相談したら、「やりたいこと」を実現できるんだということを知っていただくのがまず第一だと思いますし、移住者の「やりたいこと」を必ず実現するようにサポートするというのが私たちのベースです。
 そしてプラスで、必ず「やりたいこと」をいろんな方たちとの協働になるようにつないであげる、マッチングやコーディネートをすることを意識しています。移住者個人の「やりたいこと」を、他のやりたい人や他の人の「やりたいこと」に上手につないで一緒になってやるという経験ができるようにします。そうしていくと、「やりたいこと」をやった結果、「もっとやりたい」とか「次はこんなことをしてみたい」といったやる気や、地域の人たちと仲良くなって別の活動にも参加するようになったとか、そういうことが生まれ、移住者個人の「やりたいこと」が次につながる活動になるんです。社会教育は人と人を丁寧につないでいくということにつきます

益田を全国の若者のチャレンジの場に

——移住者のやりたいことを実現するサポートはどの自治体でもやっていると思いますが、そのやりたいことをただ実現するのではなく、地域の人やいろんな組織とコーディネートすることによってその後につながっていくのですね。

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 そうすると、移住者が「やりたいこと」を実現するうえで、誰が一番得をしているかというと益田市の市民なんですよ。移住者の「やりたいこと」に多くの市民が巻き込まれて、元気になります。そういう場面が益田市の中にはあふれています。そのため、実は移住者に定住してもらうということにこだわってもいないんです。益田市を全国の若者のチャレンジの場にしてもらいたいと思っています。
 何かやりたいことがあるから、益田に来るわけですよね。東京に行ったら誰も知らないような街にくるということは、「ここに行ったら私のやりたいことができる」と期待して来てくれていると思います。だとするならば、「やりたいことができる街」「チャレンジさせてくれる街」というのを売りにするべきだと思ったんです。若者はやりたいことをやりながら、スキルアップしていくのだと思いますが、スキルアップした先のゴールが益田でなくて良いと考えています。

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——定住してもらわなくてもいいというのはすごく斬新な考え方のような気がします。

 私が8年前に社会教育課に来たときは、人口拡大課が移住・定住を担当していました。そのときは「何とか定住してもらわなくてはいけん」と、かなり悲壮感が漂っていたんですよ。しかし、実際に移住した若者たちに話を聞いてみると、「益田はいいところだと思うけど、まだ人生どうするかということが分からないのに、定住するかどうかまで決められない」と話していました。そこで、7年前に市長に提言し、移住者に定住を期待しすぎて負担感を与えるのではなく、3、4年しっかりと益田で「やりたいこと」を実現し、活動してもらうにはどうすればよいかという「ひとづくり」の視点で移住支援をすることになったんです。
 益田でスキルアップした先に、その人が違うステージを求めるなら、益田から出て行っても良い。結果的に定住しなくても、益田でスキルアップできたのであれば、自分の可能性が伸びたのであれば、益田のことはその後も好きに違いないし、いつまでも益田の応援をしてくれるし、もしも誰かに「どっかいいところない?」と聞かれたら「益田がいいよ!」というに違いないと思っています。そんな人たちを全国に、益田ファンを散らばらせたほうが、将来的に益田に持続的に人が来るようになるんじゃないかと考えています。

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後編は...
■地方都市の高校生にとって一番大きな格差は「可能性の格差」
■益田を離れた子供たちが帰ってくるようになった
■Uターン率大幅アップ戦略
■ひとづくりの拠点となる公民館 
■益田は「協働が学べるまち」

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